このたび、日本東洋医学会の会長に就任いたしました、福島県立医科大学会津医療センター 漢方医学講座の田原英一です。身に余る重責ではございますが、会員の皆さまのご信任に深く感謝申し上げるとともに、今後の学会の発展のため、誠心誠意努力してまいります。
現在、私たちが直面している最も重要な課題は「(漢方薬の)保険外し」問題です。保険診療の枠組みから漢方薬が外されれば、必要な治療を受けられない患者さんが増えることは明白です。この問題に対し、私は会長として最優先に取り組みます。代議員の先生方と連携しつつ、国会議員への定期的・計画的な訪問を実施し、現場の声を政策に反映させるための基盤を築きます。また、議員との継続的な関係構築に向けた調査や対話も並行して進めてまいります。
加えて、漢方の意義や有用性を社会に広く伝えることも喫緊の課題です。私はYouTubeなどの動画配信やInstagramなどのSNSを通じて、漢方の科学的根拠(EBM)をわかりやすく伝える広報戦略を強化します。さらに、日本臨床漢方医会のメーリングリスト等にも協力を依頼し、保険・教育・臨床に関する最新情報を共有、現場からの声を集める双方向的な情報網の整備も進めます。一方、一般の方々に対しては、「漢方友の会(仮称)」などの新たな市民ネットワークの設立を検討しています。LINEなどのプラットフォームを用いて、季節の養生、セルフケア、医療相談などの情報を定期的に発信し、東洋医学への理解と共感を深めていただく取り組みを行います。
学会の未来を支えるのは、まさに若い世代です。しかし、現状として、20代の会員は全体の0.3%、30代でも6.5%にとどまっており、今後10年で多くのシニア世代が引退を迎えるなかで、組織の持続可能性が強く問われています。だからこそ私は、次世代の心に「漢方への情熱」という種をまき、若手医師・学生が東洋医学に触れ、仲間を得て、活躍できる場を整備していくことが急務であると考えています。
そのためには、SNSを活用した発信、若手向けeラーニングコンテンツの整備、初心者向けセミナーの開催、Web指導医制度の導入など、多様な接点を構築し、入り口から出口までを設計した“連続的な関与”、すなわち「漢方を伝える」ではなく、「漢方を育む」を目指してまいります。
また、湯液診療の復権にも力を注ぎます。漢方薬の原点である煎じ薬の活用をめぐり、生薬の取り扱いや薬局体制、処方ノウハウの不足などが現場の課題として浮き彫りになっています。まずは全国的な実態調査を行い、処方支援体制の整備とともに、湯液診療に関する教育啓発活動を展開してまいります。さらに、生薬の国内栽培支援や薬草の地域資源化にも取り組み、持続可能な医療資源の確保を目指します。薬価の問題が最も難解ではありますが、必ずや解決策を見つけ出す所存です。
そして、鍼灸との連携強化も重要です。鍼灸と湯液は、車の両輪として東洋医学を支える存在です。今後は鍼灸学会との共同企画や講演会を積極的に実施し、「日本ならではの統合医療モデル」の確立に向けて取り組んでまいります。
国際的な活動についても、JLOMやISO/TC249の動向を注視しつつ、必要な支援を継続していきます。財政状況を踏まえつつも、国際舞台で日本の漢方が信頼され、活用されるよう後押ししていきたいと考えております。
「若い世代が漢方に興味を持ち、価値を感じる学会へ」。10年後には会員が今より1000名増えて、若い世代が活き活きと活動している。それが私の目指す、目に見える形の日本東洋医学会の未来像です。皆さまのお力添えを賜りながら、誰もが安心して漢方の恩恵を受けとることができる社会を共に築いてまいりましょう。今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。
会長 田原英一