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5.考察

本報告は、CPGに漢方製剤がどのように記載されているかに関するはじめての調査報告である。

調査結果から、漢方製剤の記載自体が東邦大学医学メディアセンターのリストにある「日本国内発行の診療ガイドライン」528件中51件 (9.7%)であり、また、「引用論文が存在し、エビデンスと推奨のグレーディングがあり、その記載を含むもの」、すなわちエビデンスに基づく漢方製剤の推奨度記載のある質の高いCPGは少ないことが明らかとなった。

この理由として、以下の3つが考えられる。

1) 漢方製剤の質の高いエビデンスが少ない

日本東洋医学会 EBM特別委員会・エビデンスレポート/診療ガイドライン・タスクフォース (ER/CPG-TF) による「漢方治療エビデンスレポート2010 -345のRCT-」によると、1986年-2009年の間の漢方製剤のRCTは345件(415論文)、メタアナリシスは1件(1論文)であった。その中には、RCTという手法は用いているものの、試験デザインや統計学的手法、さらには報告の質などの面から、良質のRCTとは言えないものも含まれていた。われわれは、GRADEワーキング・グループが提唱しているシステム(http://www.gradeworkinggroup.org/) を用いて、漢方の臨床報告の評価を試みている。日本では良質の漢方のエビデンスが蓄積されつつあるが、CPGにおいて強い推奨を得るような、質の高い漢方のエビデンスはまだ少ないのが現実である。まずは、漢方製剤の良質なエビデンスを「つくる」ことが求められる。

2) CPG作成者が漢方製剤のエビデンスを発見できていない

日本東洋医学会 EBM特別委員会・エビデンスレポート・タスクフォース (ER -TF) による「漢方治療エビデンスレポート2009 -320のRCT-」には、漢方製剤に関する論文検索の現状が述べられている。

  • ・RCTの世界的なデータベースであるThe Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL) においては、漢方製剤に関するRCTは、"Medicine, Kampo" というMeSH (Medical Subject Headings) でヒットするものは少なく、"Drugs, Chinese Herbal"など、様々なMeSHで登録されている。
  • ・医学中央雑誌刊行会の医中誌Web (http://www.jamas.or.jp/body.htm) において、キーワード(統制語)として「漢方薬」がつけられているもの、または題名、抄録中に「漢方」という文字が含まれているものを検索した場合、中国の薬品や健康食品など漢方薬でないものがヒットしてくる。逆に、漢方製剤のRCTであるにもかかわらず、ヒットしないものがある。

上記2点は、論文にキーワードを付与している者の漢方に対する理解不足の問題である。今後、漢方に関し正しい認識を広める必要がある。

また、Medlineなどで漢方製剤の英語論文を検索する場合、漢方処方名の表記が日本語のローマ字表記であったり、中国語発音表記であったり、また、音節にハイフォンを入れるかどうか等についてまちまちであることから、網羅的な論文検索が難しい状況にある。これは論文執筆者の側の問題である。日本においては「漢字処方名ローマ字表記法」 (日本東洋医学会雑誌 2005; 56: 609-22; http://www.jsom.or.jp/pdf/standard_kampo_list.pdf和漢医薬学雑誌 2005; 22 綴じ込み別冊、Natural Medicines 2005: 59: 129-41) が作成されており、今後、これに従った表記が望まれる。

以上のような状況では、CPG作成者が一般的な方法で漢方製剤のエビデンスを探しても、十分に検索できていないことが推測される。論文発表年とCPG作成年との時間的な問題もあるが、「漢方治療エビデンスレポート2010 -345のRCT-」に掲載されている1986-2009年の漢方製剤のRCT 384論文、メタアナリシス 1論文のうちCPGに引用されていたのはわずか22論文のみであり、本来それがCPGに取り込まれるべきなのに、取り込まれていない漢方薬のエビデンスが存在することも明らかになった。今後は、漢方薬の質の高いエビデンスが各CPGに「つかわ」れるべきであると考えている。

3) CPG作成者が漢方製剤を正しく認識できていない

CPGの中には、漢方製剤が処方名ではなく、「漢方」とひとくくりにされている場合や、代替医療、民間療法の一部と捉えられている場合があった。

なお、除外された例ではあるが、外国のCPGの翻訳版である「喘息の診断・管理NIHガイドライン 第3版」 (医学書院, 2006) においては下記のように herbal medicineを漢方と誤って訳していた。

原文:
Expert Panel Report 3: Guidelines for the Diagnosis and Management of Asthma
(http://www.nhlbi.nih.gov/guidelines/asthma/07_sec3_comp4.pdf)
“The most widely known complementary and alternative medicine methods are acupuncture, homeopathy, herbal medicine, and Ayurvedic medicine (which includes transcendental meditation, herbs, and yoga) ”
日本語訳:
喘息の診断・管理 NIHガイドライン 第3版 (医学書院, 2006)
「特に幅広くなされている補足的な代替治療法には、鍼灸、ホメオパシー、漢方療法、アーユルヴィーダ医学 (超自然的瞑想、漢方薬、ヨガを含む) がある」

このように漢方薬が正しく認識されていない状況下では、エビデンスに基づかない主観的なCPGにおいては、当初から漢方製剤が対象とされておらず、そのため記載されていないことも考えられた。今後は、エビデンスに基づいてCPGが作成され、その中で漢方製剤のエビデンスが評価されることが望まれる。

日本東洋医学会 EBM特別委員会・診療ガイドライン・タスクフォースでは、WHO/WPROによるCPG作成のプロジェクトは、組織的・方法論的問題があることを指摘したが、今回の調査過程で、国内のCPGにもエビデンスに基づかない漢方薬の記載が多数存在することが明らかとなった。CPGにおいては、漢方薬に限らず、すべての医療行為はエビデンスに基づいて記載されるべきであり、EBM特別委員会では、エビデンスを「つたえる」作業を、今後も、行っていく予定である。

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