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5. 他のプロジェクトとの関連など (relation to other projects)

本プロジェクトと他のいくつかのプロジェクトとの関係は以下の通りである。

(1) スコープ

比較試験におけるリサーチクエスチョンは介入とコントロールに規定される。今回、漢方薬同士の比較、介入として複数の漢方薬群などを用いたもの、漢方医学のシステムそのものを評価しようというものが少数存在した。漢方製剤を用いたこの種の研究がさらに望まれる。

日本の漢方医学では、漢方製剤だけでなく煎薬として用いられている場合もある。これらを用いたRCTは期待されているところであるが、今回は除外リストにいれた。一定数がまとまったところで構造化抄録を作成したい。

また漢方処方によらない生薬治療や、鍼灸などの非薬物伝統医療のRCTも、構造化抄録の作成とアクセスしやすい提供形態が望まれる。他の関連機関との協力なども将来の課題となろう。伝統医療と限らなければ、日本では、Minds (http://minds.jcqhc.or.jp/) が構造化抄録を作成し無料で公開している。

(2) 伝統医学領域のRCTの世界共通の構造化抄録

伝統薬はすでに国際的な商品となっている。日本の漢方製剤は世界的に見ればこの流れから若干遅れている。中国や韓国などの伝統薬製剤についても質の高い構造化抄録が作成されれば、WHO西太平洋地域事務局 (WHO Regional Office for the Western Pacific: WPRO) が作成しようとした診療ガイドラインなどにおいて議論の混乱を減じることができよう。

先に述べた鍼灸などについても同様であり、すでにFACTではこのようなプロジェクトが進行している。

伝統医学領域のRCTの構造化抄録の作成においては、各国共通の形式と、その質の標準化がkeyとなろう。

(3) CONSORT声明

RCTを報告する論文の質向上を目指して、CONSORT声明が1996年に公表され、2001年に改定されている (http://www.consort-statement.org/)。

全部で22の項目からなり、論文作成者は、各項目の情報が何ページにあるかを記したチェックリストを付けて投稿するものである。また例数のフローチャートをつけることも要求される。これは解析対象例数によって結果が異なる場合があるためである。これらによってRCT論文の質管理とともに、RCTそのものの質が高まる。なお、日本東洋医学会の投稿規程も、2008年3月改訂版 (日本東洋医学雑誌 2008; 59: 580-89)から「RCT論文の場合は改訂版CONSORT声明 (2001) に準じる」が加えられた。

CONSORT声明のherbal extensionともいえるものが2つ発行されている。

Gagnier JJ, Boon H, Rochon P, Moher D, Barnes J, et al. Reporting randomized controlled trials of herbal interventions: An elaborated CONSORT statement. Annals of Internal Medicine 2006; 144(5): 364-7.(岡部哲郎, 津谷喜一郎訳. ハーブ介入のランダム化比較試験報告: 詳細なCONSORT声明. In: 中山健夫, 津谷喜一郎 (訳). 臨床研究と疫学研究のための国際ルール集 ライフサイエンス出版, 2008. p.156-63)

Bian ZX, Moher D, Dagenais S, Li YP, Wu TX, et al. Improving the quality of randomized controlled trials in Chinese herbal medicine, Part IV: applying a revised CONSORT checklist to measure reporting quality. Journal of Chinese Integrative Medicine (Zhong Xi Yi Jie He Xue Bao) 2006; 4(3): 233-42.(津谷喜一郎、荒木里美訳. 中薬のランダム化比較試験の報告に関するCONSORT声明. In: 中山健夫, 津谷喜一郎 (訳).  臨床研究と疫学研究のための国際ルール集 ライフサイエンス出版, 2008. p.164-9)

前者は単味のハーブを、後者は中国の方剤を対象にしたものである。生薬からなるという特性から「介入」についてどう記述すべきかが詳しく書かれている。後者は中国伝統医学の診断体系や臨床経験年数なども考慮されている。第3期EBM特別委員会では、漢方版のCONSORT声明を作成すべく、漢方CONSORTタスクフォース (KC-TF)を設置し、検討中である。

今回、構造化抄録を作成した論文に関し、その論文での報告が、CONSORT声明にしたがった記載になっているかどうかに関して調査したところ、報告の質が良いものは少ないことが明らかになった。特に、タイトル/抄録においてRCTであるとの記載がない、試験実施施設と期間の記載がない、漢方製剤のメーカー名や一日投与回数の記載がない、ランダム化の方法と保証の記載がない、エントリー患者数, 割付患者数, 解析患者数が不明確、比較対照群の有害事象が記載されていない、などの不備が多くみられた。今後、漢方のRCTに関しても、CONSORT声明に従った報告が求められる。なお、本件は研究として以下で発表された。

岡部哲郎、新井一郎、津谷喜一郎. エビデンスレポートプロジェクト: アウトラインと漢方RCTの質評価. 第60回日本東洋医学会学術総会 フォーラム「漢方のエビデンスを『つたえる』」, 2009.6.21, 東京. 日本東洋医学雑誌 2009; 60 suppl.: 160.

なお、CONSORT声明は第3版が2010年3月発行されている。また元来、RCTを対象に1996年に発表されたCONSOR声明はその後、疫学研究、システマティックレビューなどの多様な研究デザイン、また上記した広く相補代替医療 (complementary and alternative medicine: CAM) などに展開 (extension) した。こうした状況下で、それら全体の、論文作成に当たってのガイドライン (publication guideline) をカバーしアクセス性を高め、また将来のガイドラインの作成をサポートする “equator network” が2008年6月に設立された (http://www.equator-network.org)。

このうち主たるものの日本語訳は以下に含まれる。

中山健夫, 津谷喜一郎(編). 臨床研究と疫学研究のための国際ルール集. ライフサイエンス出版、2008

(4) 臨床試験の登録公開

2008年10月修正のヘルシンキ宣言では第19項に「すべての臨床試験は、最初の被験者を募集する前に、一般的にアクセス可能なデータベースに登録されなければならない。」(Every clinical trial must be registered in a publicly accessible database before recruitment of the first subject) が入った。しかしこのことはあまり知られていない。そこでここでは、それまでの歴史的経緯を含めて述べることとする。

臨床試験の登録公開 (clinical trial registry: CTR) は、1990年代に「エビデンスに基づく医療」(evidence-based medicine: EBM) が盛んになり、注目されるようになったものである。特に、1992年にEBMの情報インフラの一翼をなすコクラン共同計画 (The Cochrane Collaboration) が設立され、システマティック・レビュー(SR)が本格的になされるようになり問題がより明らかなった。SRはメタアナリシス (meta analysis: MA) とほぼ同義としてよい。

いかに網羅的な調査を行いstudyを探し、その質を吟味し、高度の統計学的方法を用いて統合しても、実施されたstudyが報告されていなければバイアスが入るという問題がおきる。これは「パブリケーション・バイアス」として知られる。これによって、医療において種々の意思決定を行うもの、すなわち医療従事者、政策決定者、医療消費者などが、間違えた意思決定をなすことになる。無効な治療法、有害な治療法、費用対効果が悪い治療を「つかって」しまうのである。

Table 5に、鍼の分野の例を示す。1966-1995 年の期間でMedlineを検索しabstractつきの論文について結果を調査すると、中国では109編の論文のうち108編、99%が “favor to treatment”、つまり鍼がコントロール群に比較して「効いて」いるのである。イングランドは75%であるが、日本を含めてその他の国も同様である。これは「効かなかった」studyが論文化されていないことを示す、と一般には解釈される。

こうした事態は、システマティック・レビューの研究者間では広く知られていた。このバイアスを避けるため、研究者の倫理に訴える、法制化する、websiteを設定しそこに計画中や進行中の臨床試験を登録する、などいくつかの方法が論じられたが、具体的な方法は充分に確立しなかった。

一方、米国国立保健研究所 (NIH) の国立医学図書館 (NLM) は、1997年のUS-FDA近代化法(FDA Modernization Act)にもとづき、生命を脅かす疾患 (life threatening disease) については、患者の臨床試験に対するアクセスを促進する目的で、2003年に “ClinicalTrials.gov” を設立した (http://clinicaltrials.gov/ct2/info/about)。このシステムはパブリケーション・バイアスを避けるのが主目的ではないが、一部はその機能を持つことになった。ただし、疾患はがん、AIDS、アルツハイマー病などに限られていた。

ところが、2004年6月3日のNew York Timeの1面に掲載された、Glaxo SmithKline社のスキャンダルを契機に世界が動くようになった。小児に対する抗うつ剤の臨床試験で自殺企図の有害事象があったにもかかわらず、それが適正に報告されなかった、というものである。ここで一挙に臨床試験登録を義務づけるべきという論調が世界的に高まった。類似の臨床試験の参加者にとってのリスク、さらには「利他主義」(altruism) にもとづく試験参加者の善意が無視されることなど、生命倫理の問題が顕在化したのである。

2004年9月には医学雑誌編集者国際委員会 (ICMJE) が声明を出し、臨床試験が事前に登録されていなければその原稿を受け付けない、とした(すでに進行中のものは猶予期間が設けられた)。同年10月のコクラン・コロキウムでは「オタワ宣言」がだされた。WHOも動き、翌2005年4月にジュネーブのWHO本部で “WHO Technical Consultation on Clinical Trial Registration Standard Meeting” が開催され、登録すべき20項目などが決められた。

この2004年-2005年の動向は、以下にまとめられている。

(1) 臨床試験の登録と結果の公開 (ポジティブ, ネガティブを含めて. 第25回日本臨床薬理学会年会・シンポジウム12. 2004.9.18, 静岡. 臨床医薬 2005; 21(1): 3-62

(2) 「臨床試験登録に関する「オタワ声明」と「ジュネーブ会議」の動向」. 薬理と治療 2005; 33(6): 543-66
   http://www.lifescience.co.jp/yk/jpt_online/ottawa/index_ottawa.html

(3) UMIN臨床試験登録システム シンポジウム (2005.2.2)
   http://www.umin.ac.jp/ctr/symposium20050202.htm

日本では、UMIN-CTR(2005.6-)、日本医薬品情報センター (JAPIC) によるJAPIC-CTI(2005.7-)日本医師会治験促進センター (JMACCT) によるもの(2005.12-)の3つのシステムが始まり、さらにそれを串刺しにした国立保健医療科学院のJPRN (2008.10-) も開設された。

WHOは2007年に、世界各国のシステムを串刺し検索できるInternational Clinical Trials Registry Platform (ICTRP, http://www.who.int/ictrp/en/) を設立し, 検索システムのサイトを開設した (http://apps.who.int/trialsearch/)。

現在、登録されているものは日本の漢方製剤を含めてここから検索できる。

2007年4月以降の、厚生労働科学研究費補助金のうち、介入を伴う臨床研究については登録が義務付けられた。また2009年4月以降、厚生労働省による「臨床研究に関する倫理指針」でも義務づけられた。

以上、臨床試験登録の趣旨をやや詳しく、歴史的に解説してきた。

ところで、日本でどのくらいのRCTや臨床試験が実施され、そのうちのどういう割合が登録されているのであろうか?

2006年に世界各国の状況などをまとめた書籍では、当時、日本では治験が400件、その他の臨床試験が2,300件、計2,700件実施されたと推計された。

Matsuba H, Kiuchi T, Tsutani K, Uchida E, Ohashi Y. The Japanese perspective on registries and a review of clinical trial process in Japan. In: Foote M ed. Clinical trial registries: A practical guide for sponsors and researchers of medicinal product. Basel: Brikhäuser, 2006

またそこでは、2006年2月時点で3つの登録システムで累計550件が登録されたとしている。日本のシステムは先に述べたように、最も早期に開始されたUMIN-CTRでも2005年6月開始である。そこで、2010年5月時点でそれぞれのシステムから2006年の登録数を見てみると、UMIN-CTRが259件、JAPIC-CTIが138件、JMACCTが7件、計404件であった。すなわち、登録割合は約15% (404/2,700)であった。

おなじく2009年分を見るとそれぞれ1,311件、295件、9件、計1,615件である。臨床試験の年間実施数を先と同じく約2,700件とすると、登録割合は約60% (1,615/2,700)となる。

先に、鍼の領域のパブリケーション・バイアスの1966-1995年の状況を例として示した。では、現在の漢方製剤のパブリケーション・バイアスの状況はどのようなものであろう。

本エビデンス・レポートの全345件について予備的な解析を行ったところ、コントロール群が他の漢方製剤だけの試験を除いた308件の試験のうち、”favoring test treatment”は 301件(98%)という結果であった。先の鍼のパブリケーション・バイアスと同じ状況である。

日本での臨床試験の登録割合は急速に上昇しているが、漢方製剤についても登録がなされ、真の有効性や安全性のエビデンスが明らかになることが望まれる。

なお、世界的には、進行中の臨床試験だけではなく、その結果の公表も義務付ける方向である。NIHによってfundされたものはすでの実施されている。日本で登録された漢方製剤の結果の公表状況は、以下で報告された。

新井 一郎, 津谷 喜一郎. 漢方薬の臨床試験登録と結果の公表状況. 第61回日本東洋医学会学術総会, 2010.6.5, 名古屋. 日本東洋医学雑誌 2010; 61 suppl.: 244.

広くCAMの領域は、このパブリケーション・バイアスが、通常医学 (conventional medicine)よりも大きいとされる。製薬企業がスポンサーとなって行う治験のような行政的枠組みがなく、多くは医師がスポンサーとなり自発的に計画・実施されるものであり、臨床試験登録制度の、日本を含めての世界の動向を知らないことが多いためである。

本「エビデンス・レポート」プロジェクトは、日本におけるRCTをコメントつきの構造化抄録にまとめ、多様なユーザーに「つたえる」ことを目的としたものである。そこではバイアスを減少させることを常に念頭において作業がなされている。だが実施されたRCTが論文などで発表されてなければ、そのパブリケーション・バイアスは防ぎようがない。

日本で今後、漢方製剤のRCTを計画・実施しようとされる方が、そのすべてを登録されることが強く期待される。

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