(1) 論文の選択基準
以下の3つの基準を全て満たす論文を対象とした。
- 1) 日本で製造販売承認を受けている漢方製剤を用いているもの
(煎剤などの自家製剤は、用いた薬剤の品質が不明であるため対象外) - 2) ランダム化比較試験 (randomized controlled trial: RCT) 、準ランダム化比較試験 (quasi-randomized controlled trial: quasi-RCT) 、クロスオーバー試験、およびメタアナリシス
(ランダム化の記載が不十分なものも一部含む。クロスオーバー試験はRCTとみなす) - 3) 1986年以後に発表されたもの
なお、1986年以後に発表されたものであっても、1985年以前の現在の品質とは異なる製剤を全ての試験期間で用いていることが明らかな報告は除外した。
(2) 検索とスクリーニング
検索には以下の2つのデータベースを用い、ハンドサーチによる収集分も追加した。スクリーニングは2段階で行われた。すなわち、検索後、検索担当者によって、あきらかに基準を満たさないもののみを除外した後、後記する構造化抄録作成のプロセスで吟味がなされ、最終的な採択・除外の件数が決定された。
1) The Cochrane CENTRAL (C)
コクランが作成するRCTの世界最大のデータベースであるThe Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL) を用いて、漢方のRCTを検索した。なお1992年設立からのThe Cochrane Collaboration (コクラン共同計画)の名称は2015.1.30にCochrane(コクラン)に変わった。
CENTRALはRCTに特化したデータベースとして、PubMed、Embase、さらに各雑誌のハンドサーチによるRCTを含むものである。
このため本プロジェクトでは当初よりPubMedの検索は実施していない。
2022年4月24日に、下記に示す検索式で、1986年以後の範囲で検索した。
#1 MeSH descriptor Medicine, East Asian Traditional explode all trees
#2 MeSH descriptor Medicine, Kampo explode all trees
#3 MeSH descriptor Medicine, Chinese Traditional explode all trees
#4 MeSH descriptor Drugs, Chinese Herbal explode all trees
#5 MeSH descriptor Herb-Drug Interactions explode all trees
#6 MeSH descriptor Herbal Medicine explode all trees
#7 MeSH descriptor Plants, Medicinal explode all trees
#8 MeSH descriptor Plant Structures explode all trees
#9 MeSH descriptor Plant Extracts explode all trees
#10 MeSH descriptor Materia Medica explode all trees
#11 MeSH descriptor Phytotherapy explode all trees
#12 (Kampo):ti,ab,kw
#13 (Kanpo):ti,ab,kw
#14 (Japanese):ti,ab,kw
#15 (Oriental):ti,ab,kw
#16 (Traditional):ti,ab,kw
#17 (East Asia):ti,ab,kw
#18 (East-Asia):ti,ab,kw
#19 (Herb*):ti,ab,kw
#20 (Chinese):ti,ab,kw
#21 (#1 OR #2 OR #3 OR #4 OR #5 OR #6 OR #7 OR #8 OR #9 OR #10 OR #11 OR #12 OR #13 OR #14 OR #15 OR #16 OR #17 OR #18 OR #19 OR #20), from 1986 to 2021
#22 (HS-EKAT)
#23 (#21 AND NOT #22)
2011年10月、EKAT 2010の構造化抄録の「文献」項目に掲載された漢方製剤のRCT論文のうち、以前からCENTRALに収載されていた論文を除いたものが新たにCENTRALに収載され、HS-EKATのタグがふられた上、日本東洋医学会のwebsiteにあるEKATの構造化抄録にリンクがはられた。本検索では、これらの論文を除くために、検索式において “HS-EKAT” が含まれる論文417件を除外した。
HS-EKATがふられた 417件を除外して検索された 96172件から目視により漢方の論文を検索したところ200件の漢方に関する論文があった。なお、CENTRALで検索された漢方の論文のうち、20件が医中誌Webでの検索結果と重複していた。
総ヒット数に対する漢方に関する報告の割合は約0.2%であった。
最終的に 200論文のうち、対象選択基準にあう129論文につき構造化抄録を作成し、71論文は構造化抄録を作成せず、除外論文リストに書誌事項と除外理由を記載した。
2) 医中誌Web (I)
医学中央雑誌刊行会発行のインターネットで提供される医中誌Webを用いて2022年4月7日に以下の検索式で漢方の RCTを検索した。
検索式:
(漢方薬/TH or 漢方/AL) and (メタアナリシス/RD or ランダム化比較試験/RD or 準ランダム化比較試験/RD) and (DT=1986: 2021)
医中誌Webでは、研究デザインとして、メタアナリシス、ランダム化比較試験、準ランダム化比較試験にタグ付けを実施しているため、今回の検索では、これらにタグがついているもの (メタアナリシス/RD or ランダム化比較試験/RD or 準ランダム化比較試験/RD) の中から、キーワード (統制語) として「漢方薬」がつけられているもの (漢方薬/TH) または題名、抄録中に「漢方」という文字が含まれているもの (漢方/AL) で、かつ1986-2021年のもの (DT=1986:2021) とした。
その結果、384論文がヒットした (うち20論文はCENTRALと重複) 。これらの中から収載基準にあうものを検索し217論文について構造化抄録を作成した (RCT 215論文、メタアナリシス 2論文)。構造化抄録を作成した論文のうち1論文は、論文中に2つのRCTが含まれていたため、RCTごとに別々の構造化抄録を作成している。
医中誌Webでは、中薬や食品、インド医学などにも「漢方」のキーワードがふられており、これらの論文や、ランダム化が漢方薬の評価のためでないもの、臨床論文でないもの、既存論文の引用など、計104論文については構造化抄録を作成せず、除外論文リストに書誌事項と除外理由を記載した。
3) 日本漢方生薬製剤協会によるハンドサーチ (N)
日本漢方生薬製剤協会 (日漢協) によるハンドサーチは、日漢協各社で収集している漢方や生薬の論文の中から、2022年4月7日に、以下の言葉 (キーワード) が文中に含まれる1986年以降の論文を調査し、ピックアップした。
- キーワード:
- メタアナリシス、メタ解析、メタ分析、RCT 、ランダム、無作為、無作意、封筒、来院順、受診順、診断順、割付、割り付け、割つけ、わりつけ、ブラインド、盲検、盲験 、遮蔽、遮へい、しゃへい、マスク、マスキング、クロスオーバー、交叉、交差、比較臨床、random、cross over、meta analysis、envelope
ハンドサーチによりピックアップされたもののうち、CENTRAL、医中誌Webの検索結果と重複しない333論文について構造化抄録を作成した。また、構造化抄録を作成した論文のうち3論文は、各論文中に2つのRCTが含まれていたため、RCTごとに別々の構造化抄録を作成している。ハンドサーチによりピックアップされたものの、厳密には選択基準に合致しない65論文は構造化抄録を作成せず、除外論文リストに書誌事項と除外理由を記載した。
以上、2つのデータベースとハンドサーチから、全体としてTable 1のように、899論文が同定され,このうち662論文につき構造化抄録を作成し、237論文は除外論文リストに書誌事項を記載した。
(3) 構造化抄録の作成
収載基準に合致した文献に関し、構造化抄録 (Structured Abstract: SA) を作成した。構造化抄録に関する研究は1980年代からはじまるが、ここではRCTの構造化抄録として、Altmanらにより提唱され、現在、世界的に用いられている8項目からなるものを採用した。
Altman DG, Gardner MJ. More informative abstracts. Ann Inter Med 1987; 107(5): 790-1.
青木 仕. 構造化抄録の基礎知識. In: 津谷喜一郎, 山崎茂明, 坂巻弘之 (編) . EBMのための情報戦略 –エビデンスをつくる, つたえる, つかう–. 中外医学社, 2000. p. 82-93.
ここで言う8項目とは、1) 目的、2) 研究デザイン、3) セッティング、4) 参加者、5) 介入、6) 主なアウトカム評価項目、7) 主な結果、8) 結論、である。
この8項目は、JAMAなどの医学雑誌、Evidence Based MedicineやACP Journal Clubなどの2次情報誌で広く使われている。また伝統医学や代替相補医学の2次情報誌などでも広く使われている。代表的なものは、Focus on Alternative and Complementary Therapies (FACT) があり、そのうちの鍼の部分に関しては日本語訳 (津谷喜一郎 (監訳). 鍼のエビデンス –鍼灸臨床評価論文のアブストラクト–. 医道の日本社, 2003. その後は、「医道の日本」誌に連載されている) がなされている。
複数の論文から構造化抄録が作成された場合は、論文の書誌事項は、構造化抄録の上部に発行年順に記載し、その中の主要な論文を太文字で示した。
なお、5)の介入に関しては、メーカー間で品質が異なる可能性があることから、原論文中に記載される商品名を記載することを原則とした。なお、論文発行以後、製造販売会社の名称変更などにより現在では商品名が変更されている製剤であっても、論文記載の商品名を記載した。
「漢方治療エビデンスレポート」の構造化抄録では、上記の世界的な8項目に、 9)漢方的考察、10)論文中の安全性評価、11)Abstractorのコメント、12)Abstractor and dateの4項目を追加した。それぞれについて解説する。
9)「漢方的考察」は、漢方医学の持つ独自の診断体系をどう用いたかということである。臨床試験をデザインする段階と、試験実施が終わった後の解析の段階との2つがある。RCTにおいては、pre-randomizationとpost-randomizationの段階と呼ぶこともできる。前者の臨床試験デザインの段階では、プロトコールの試験参加者の選択基準 (entry criteria) と除外基準 (exclusion criteria) に、漢方薬の「証」を、その試験に参加する医師が理解可能なように記載するものである。後者の解析の段階でなされるものは、層別解析 (stratified analysis) と呼ばれるもので、年齢区分、性別などに層別して行われるのと同様に、「証」に合致した試験参加者とそれ以外で層別し解析が行われる。しかしこの層別解析には「推論の多重性」という問題が生ずる。すなわち、多くの層を作り検定を繰返すと「本来は差がないのに差がある」とする偽陽性 (false positive) の結果が生ずることになる。事後的な手法には共変量を考慮した調整などの手法もある。
10)「論文中の安全性評価」は、漢方薬においても、有効性だけではなく常に安全性にも考慮されるべきと考えたことにより取り入れたものである。ここで単に「安全性の評価」ではなく「論文中の安全性評価」としたのは、しばしば安全性の評価に誤解が見られるためである。RCTは、通常、有効性に関係するエンドポイントを用いて、その例数設計がなされるものであり、安全性の評価を目的とはしていない。たとえば、漢方薬群100例のうち副作用の発現がない場合、「100例にも使って副作用がないのだから安全」と捉えられがちである。確かに点推定 (point estimation) では、その出現率は0%であるが、区間推定 (interval estimation) を考えれば、95%信頼区間 (confidence interval: CI) は0~3%となる。特に、重篤な副作用が低頻度で起きうる場合、「安全性」はその論文に記された臨床試験の参加者数とともに判断されるべきであり、このことを考慮して「論文中の安全性評価」としたものである。
漢方の論文では「30例に投与し副作用の症例はなかった」などの表現がしばしばみられる。だが、留意すべき2つの考え方がある。
第1に、副作用と有害事象は異なるということである。「有害事象」 (adverse event: AE) とは、「医学的に好ましくないあらゆる事象 (event) であり、因果関係を問わない」であり、そのうち「因果関係を否定できないもの」が「副作用」 (adverse drug reaction: ADR) である。
第2に、確率論的考慮による信頼区間(confidence interval: CI)が必要で通常95%CIが記際される。その両端の値は信頼限界 (confidence limits)と称される。例えば、10例で有害事象が0例で0 - 26%、20例で0 - 14%、50例で0- 6%、100例で0 - 3%、500例で0~0.6%となる。50例を越えるあたりから近似的に「3の法則」が成り立つ。左側の信頼限界は常に0であり、右側の信頼限界は1-0.051/nで求まる。上記の詳細は以下にある。
津谷喜一郎. 研究デザインの基礎. In. 津谷喜一郎, 他 (編) . EBMのための情報戦略
–エビデンスをつくる、つたえる、つかう– . 中外医学社、2000. p. 26-47
上記の説明は、有害事象の発現が0として行ったが、一般的には「n例中、m例の有害事象がおきた」場合、その信頼区間は、二項分布の信頼区間として、以下の式で求まる。なおこの式では二項分布の正規近似を利用しており、標本サイズが小さな時(n<25)には誤差が大きくなる。
イベント出現率の95%信頼区間=p±1.96√(p(1-p) /n) (ただし、p=m/n)
上記の式では正規近似を用いたが、その他の算出法について、インターネット上で容易に計算できるシステムも存在する。
本エビデンスレポートでは、「論文中の安全性評価」の記載を以下のように標準化した。
- 1) 記載なしの場合
- 安全性に関する評価がなされていない、あるいは記載されていない場合は「記載なし」とした。
- 2) 記載ありの場合
- 安全性に関する評価が少しでもなされており、副作用が認められない場合には、その主旨を記した。また、具体的な副作用の内容がある場合には、各abstractorが論文の表現に沿って記載した。副作用の例数が論文中に明記してある場合はその例数を記載した。論文ごとに副作用の記載には不統一な部分があるため、その内容には充分留意されたい。
11)「Abstractorのコメント」は、構造化抄録として紹介された論文に客観的な立場からコメントしたものである。これによって多忙で、また批判的吟味 (critical appraisal) に慣れていない読者が、その論文の価値を正しく容易に判断することが支援される。なお、Abstractorの選定に当たっては、Abstractorと当該論文の著者らが、同じグループに属したり師弟関係がないようになされ、利益相反 (conflict of interest: COI) への対応がなされた。このコメントの付与は、本タスクフォースのメンバー間でもっとも議論された事項である。その内容の質を高め、標準化することを目的として、2007年6月17日に広島での第58回日本東洋医学会学術大会の期間中、エビデンスレポート・タスクフォース 第2回ワークショップ「適切なコメントを作成のために」が開催された。その内容は以下にまとめられた。
12)「Abstractor and date」は、上記した利益相反にも関係し責任体制を明確にするため、コメントが関連研究との対応でどの時点でなされたかがわかるようにするため、また後に補正されることもありうることを考慮し、年月日をいれた。構造化抄録の改訂がなされた場合は、改訂日を追記した。
構造化抄録の作成は班員の専門性を考慮して割り振りを行ったが、班員の専門領域が全ての領域を包含していないため、専門外の者が作成したものも含まれる。書誌事項の記載方法はバンクーバースタイルを基本とした。ただし、著者は3名までとすることや、雑誌名の省略名は用いないことなど一部改変を行った。構造化抄録は、疾患のICD10 (2003年改訂版) コード順に並べて編集した。同じコードの場合には主評価論文の発表年順とした。複数のICDコードが考えられる場合には、より一般的に理解しやすいと思われる方のコードを選んだ。除外論文リストも、同様にICD10コード順に並べた。処方名などで当用漢字がないものはカタカナで表した。なお、ICDコードの疾病名は、一般的な疾病名と異なるため、Table 2のように読み替えて掲載した。構造化抄録作成にあたっては質の維持を目的として、「Structured Abstract作成マニュアル」を作成し、適時 updateして班員らに配布した。